

私達が高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における移動相の脱気の必要性を提案し、移動相の脱気に適した脱気装置(デガッサー®)を発表した時、脱気についての一般的な認識は単なるHPLC流路内の発泡防止といった程度でした。
しかしながら、私達の多くの発表や実証結果、精度に関する社会的な認識の変化に伴い、現在では移動相のオンライン脱気は、HPLCにおける精度確保の為に当然システムに組み込まれるべき要素となっています。
液体は圧縮されないと思われがちですが、正確には圧縮されしかも溶存気体量の違いで圧縮率は異なります。
示差屈折計を使用した密度変化の推定実験結果( PDF 67kB)によっても溶存気体量(脱気度)と密度変化の関係が表れています。
即ち、溶存気体量の変動はポンプによる移動相の圧縮率変化/流速変動の原因となり、結果として溶出容量精度を下げる要因となります。
勿論、ポンプヘッド部での気泡発生は大きな流量変動を起こし、送液停止の事態を引き起こすことがあります。
この防止には、デガッサー®による安定した移動相の脱気が効果的です。
HPLCやフローセルを使用した検出器を持つ分析機器では、検出器部分での微小な気泡の発生や移動相の透過度、密度、その他の物性変動により安定性が低下します。
結果としてS/N比が低下し、検出限界や定量限界が悪化します。
この傾向は特に示差屈折計や低波長領域使用時のUV検出器で顕著です。
デガッサー®での脱気による検出器ベースラインの安定性向上は、現在では常識になっており、勿論、HPLCに限らず発泡や溶存気体の影響を受ける各種の検出器を持つ多くの分析機器での効果も得られます。
移動相中の溶存気体はそれ自体に特定波長のUV吸収があったり、蛍光吸収を持っています。
また、溶存気体量の多寡は光の屈折率を変化させます。
この事は前項のベースライン安定性に関わりますが、検出条件によってはピーク強度を大きく変化させます。
特に、蛍光検出では励起された蛍光が移動相中に溶存している酸素に吸収(PDF 109kB)され、物質、波長条件によっては相対ピーク強度が大きく変化します。
デガッサー®での脱気は、溶存気体を低減させるだけでなく、一定にさせます。
液体を扱う種々の作業や工程、機器等では、液体中に気泡が生じる事で多くの問題が引き起こされますが、脱気によってこれらの問題が解決できます。 いくつかの事例を紹介致します。
液体を使用する各種の自動分析機や測定器では、液体の移送に各種の送液ポンプが用いられています。
通常、ポンプには吸引側と吐出側、あるいは吸引モードと吐出モードがあり、吸引時には液体に陰圧(=減圧状態)がかかります。この圧力変化で溶存気体が気泡となって出現する事があります。
また、システムによっては液体が加温される機構を持つ物があり、これも気泡発生の原因となります。
気泡は簡単に圧縮されたり膨張しますのでポンプの弁が正常に作動できなくなり、あるいは液体の押出しが不可能になり、送液が止まってしまったり、極めて不安定な送液状態を招きます。
この防止には、予め溶存気体を脱気する事が効果的です。
光学的な検出を行う機器では、検出部において圧力や温度の変化、接液材質の変化を伴うものが多くあり、液体中の溶存気体が気泡となって出現する可能性があります。
超音波を使用した機器でも液体への分子振動で溶存気体が気泡となります。
これらの気泡は、検出部での正常な検出を妨げ、データの信頼性を損ねます。
勿論、脱気によってこの障害を未然に防止できます。
ポンプと同様に液体の自動計量や分注では、急激な負圧が液体にかかり気泡を発生させます。
気泡によるシステム停止に至らない場合であっても、液体の計量定量性は大きく損なわれます。
脱気による溶存気体の除去は、液体計量の精度確保にも不可欠です。
液体中の溶存気体(空気雰囲気中にあっては、溶存空気)、特に酸素は液体中の物質や接液材質を酸化させたり、分解する原因となります。
デガッサー®による脱気は、溶存酸素を含め液体中の溶存気体を減少させますので、これらの作用を抑制できます。
例えば鉄の酸化腐食進行度は、水中の溶存酸素と密接な関係があります。
デガッサー®での脱気により水中の溶存酸素を低減すると錆の発生が抑制される事は、私達の研究で実証されました。現在では施設配管の保全にも応用されています。
研究室レベルでは、腐食試験の条件を一定にする目的でも使用が検討できます。
食品や医薬品の成分には、酸素によって容易に酸化したり変質する物質が含まれています。
固形物では、脱酸素剤を用いたり窒素封入を行う事でこの変質が防止されていますが、液体である場合には容器に窒素封入を行う程度の処置に留まり、液体中に溶存している空気については有効な対策がとられていません。
デガッサー®による脱気で液体中の溶存酸素を減少させる事で、酸化分解を大幅に抑制できます。
ビタミンCを試料として用いた試験(PDF 74kB)では、1.2ppm程度に溶存酸素を減少させた水溶液中での分解は70時間経過後も殆ど認められませんでした。
酸化防止剤等を一切用いないで成分の酸化分解が抑制できます。
通常、細菌や藻類等の水中微生物は、水中の溶存空気をデガッサー®により除去する事で、繁殖を抑制できます。
デガッサー®での脱気は、溶存酸素だけでなく溶存炭酸ガス等生物代謝に必要な気体も除去します。
脱気水での菌繁殖実験では、総菌数は25日経過後計測不可能な状態に減少しました。
勿論、殺菌効果とは異なりますが水中の菌類、藻類の増殖抑制は、水管理の上で大きな効果を生みます。
備考:液中の溶存酸素のみを除去する目的では、脱気の他にデガッサー®技術を発展させた溶存ガス制御による不活性ガスへの置換も有効です。
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